
桐野夏生原作の「魂萌え」を「KT」や「顔」「亡国のイージス」の阪本順治が映画化。同じ作家「OUT」で痛い思いをした私は怖々観たのだが結構観られる作品に仕上がっていて安心した。
専業主婦の関口敏子(風吹ジュン)は59歳。夫隆之(寺尾聡)は63歳で定年退職をして3年目に心臓発作で他界してしまう。夫が死んだ途端に8年も別居していたのに一緒に暮らそうと言い出す長男彰。長女美保(常盤貴子)も巻き込んで財産相続の問題が勃発する。その上、夫の携帯電話へ謎の女からの電話。夫は死んだと伝えるとただ事ではない反応に敏子は釈然とせず、またかけ直すのだった。よく訳を聞くとその女は伊藤昭子(三田佳子)といい10年間も夫の愛人をしていたというのだ。真面目一点張りだとばかり思っていた夫に愛人がいたなんて・・・。敏子の驚きと怒りは頂点に達する。昭子を自宅に呼ぶ敏子。喪服を着てはいるが、黒いストッキングから透けて見える昭子の足の真っ赤なマニキュアに目を留める敏子だった。それを察知して足を引っ込める昭子。(この辺の描写が愛人と妻の図式をあらわしており卓越だ。)敏子の苦しみも知らずに勝手なことばかりを言ってくる子供たちに怒りが爆発した敏子はプチ家出をするのだった。生まれて初めてのカプセルホテルに宿泊する敏子。ホテルのフロントマン(豊川悦司)の叔母だという宮里(加藤治子)は、宿泊客をつかまえては自分の不幸話を聞かせて一万円をとっていた。敏子は熟年になってからが本当の人生だと信じていたのに、そんな甘い考えはことごとく瓦解するのだった。夫が昭子に数百万のお金を出資して蕎麦屋を出店させてやっていたことや、晩年は一緒に暮らそうと約束していたことを聞き暗澹とした気分になる敏子だった。風吹ジュンがヌードでシャワー、ベッドシーンを熱演と50代女の底力を見せる。夫の友人とベッドインしてみたり(この友人がまたくだらない男で人妻と忍ぶ恋をするのが趣味)初めて携帯電話を持ったり、彼女にとっては冒険をする。団塊の世代の男をケチョンケチョンに書いているところが桐野夏生らしい。それに比べて女のなんとたくましいことよ!敏子と昭子の対決もまた見ものだ。三田佳子がねっとりした愛人気質の女をたっぷり演じる。専業主婦で長年きた女がここまで自立できるとは到底思えないが(都合がよすぎる展開)、もう60近い女が今まで夫や子供のために生きてきた人生を今度は自分のために使うのだ。まあ日本人女性は長生きだから、まだ20年や25年は生きられるのだろうが病気や肉体の衰えと戦っていかなくてはならない。宮里という老女をはさむことによって身寄りのない女の悲しい末路を描いているのもよい。