「青いパパイアの香り」「シクロ」のトラン・アン・ユアン監督の2000年作品。小津安二郎を敬愛してやまない監督らしく静謐な画面が美しい。本作も又、美人は一人も出てこないのだが普通の容貌の女性をかくも美しく撮る監督はいない。温度や湿度、微風や雨の予感などを感じさせる画面に魅了された人も多いであろう。「夏至」は3姉妹のそれぞれの秘密を切り取り、愛とは赦しとは何かを描く。長女スオン(グエン・ニュー・クイン)はカフェの女主人。ハノイ植物学会専属カメラマンである夫クオック(アンクル・フン)は翡翠色の入り江に住む愛人と子供がいた。スオンはそのことを知っていたのだが、夫を責めることも出来ずにいる。スオンは寂しさから行きずりの青年トゥアン(レ・トゥアン・アイン)と逢瀬を重ねる。クオックの愛人は自分は日陰の身だから身を引いてもいいと言う。どちらの女にも責められないクオックは苦しい三角関係から逃れられない。次女カイン(レ・カイン)はライターの夫キエン(チャン・マイン・クオン)が処女小説を書けず苦しんでおり、妊娠を告げられずにいた。三女リエンは役者の卵である兄ハイ(ゴー・クアン・ハイ)とアパートで暮らしていた。ホアン(レー・ヴー・ロン)という恋人もいるのだが、近頃うまくいっていない。冒頭、アパートで兄と妹が同じベッドで寝ており、ルー・リードの音楽が流れるのだがアンニュイなエロティックさと風をはらむカーテンのバランスがいい。次女が自宅の庭先で料理する場面も、そぼ降る雨が心地よく水の匂いまでこちらに届くようである。クオックの愛人の住む水上の家やプライベート・ビーチのようなこじんまりした浜辺など、行ってみたくなるような風景である。母の命日に母には愛する人がいたなどという母の秘密。キスをしただけで妊娠したと思っている三女。青い電灯の下で3姉妹が見つめる羽をむしられた鳥。感覚的な映像の数々を堪能する作品でもある。