横山秀夫が17年間もかけて執筆したベストセラー「クライマーズ・ハイ」を原田眞人監督が映画化。本作は原田監督の最高傑作と言っても過言ではない。1985年8月12日に起きた日航ジャンボ機墜落事故を鮮明に記憶している人は多いと思うが、当時地方紙の記者をしていた横山秀夫が遺族に配慮しながら書き上げた「クライマーズ・ハイ」という原作があまりにも素晴らしく、それを忠実に再現しようとした監督の手腕もさることながら、山崎勉や堤真一、堺雅人など名優を柱に無名に近い俳優陣の演技も確かなもので昨今では珍しくよく出来た作品に仕上がった。ジャンボ機墜落現場も寸分の違いもなく再現されており美術スタッフの情熱が感じられる。北関東新聞社を舞台に男たちの情熱と熾烈な戦いを描いた本作は現在には失われた血の通った人間の仕事をたっぷりと見せてくれるのだ。社会部デスク、悠木和雄(堤真一)は販売部の安西(高嶋政宏)と登山の約束をしていたのだが、出立しようとしていた矢先、東京発大阪行きの日航ジャンボ機が墜落したという一報が入るのだった。悠木は社長室に呼び出されて白河社長(山崎努)から日航機事故担当の全権デスクに選ばれるのだった。悠木は社会部で県警担当のキャップをしている佐山(堺雅人)と地域報道班の神沢(滝藤賢一)を現地に赴かせる。一方、社長のセクハラ事件のもみ消しを命じられていた安西は、元社長秘書の美波(野波麻帆)の家に行き100万円で手を打って欲しいと土下座していた。だが美波は断固拒否する。不眠不休で仕事をしていた安西は悠木との登山の約束を楽しみにしていたのだが、駅に赴く途中にくも膜下症になり昏倒、救急病院に入院してしまうのだった。携帯電話などない時代のこと、現場の佐山は(大手の新聞社とは違い無線もない)ネクタイに半そでシャツ、革靴のまま現場を泥まみれになりながら駆けずり回るのだった。夏の暑い時のことで散乱した死体の一部にたかるハエの大群やオイルまみれの山道に難儀しながら、やっとのことで民家の電話機から第一稿を読み上げるのだった。だがそれを受けた悠木は輪転機の故障で早めに新聞が刷り上ってしまったことを佐山に言えなかった。以前は仲間だったが過去のしこりから反目しあっている等々力(遠藤憲一)や昔の栄光が忘れられない政経部長の守屋(矢島健一)らのジャマが入り、悠木の努力は水の泡となる。だが政経部デスクの岸(田口トモロヲ)や社会部デスクの田沢(堀部圭亮)、整理部の吉井(マギー)、整理部長の亀嶋(でんでん)などは悠木の力となってくれるのだった。社全体のバランスをとろうとする編集局次長の追村(蛍雪次郎)や実にイヤな奴に見えるのだが意外に真実を教えてくれる販売局長の伊東(皆川猿時)など、一筋縄ではいかない人間関係がスリリングだ。そんな折、工学部出身の地域報道班、玉置(尾野真千子)が事故原因のスクープをつかんでくる。大スクープを独り占めしたい玉置に「危険な登山ではセカンドのサポートが必要なんだよ!」と一喝してベテラン佐山をつける悠木。(彼の一言一言には魂がこもっておりメディアが背負わなければならない真実と欲望の葛藤を鋭く衝いている。)ボーイング社=アメリカを叩いてやりたい悠木の心情(母親の人生を重ねて)と二重の裏付けがなければ、100%真実でなければ報道をしてはならないという記者魂の鬩ぎ合いに葛藤する悠木の姿がいい。大スクープを取りたいという欲望に克己する人間力に感動する。そういった素晴らしい先輩の背中を見て素晴らしい後輩が育つのであるが、昨今ではそういった風潮が失われつつある。今だからこそ、こういった映画が出てこなければならない!!