マヌエル・プイグというアルゼンチンの作家は映画監督になるのが夢だったという。インタビューにも「ボクはセルロイドのフィルムになりたかった」と答えているほどの映画好きである。「蜘蛛女のキス」という小説は冒頭から180ページに渡る会話を延々と読ませるのだが、ほとんどが映画のネタなのだ。ブエノスアイレスの刑務所の同じ房に入っている2人の男。一人は未成年に対する性犯罪で8年の刑を言い渡されたゲイ(おかま)のモリーナ(ウィリアム・ハートはこの演技でアカデミー&カンヌの主演男優賞を受賞した)と革命運動家ヴァレンティン(ラウル・ジュリアは4回、トニー賞にノミネートされるなどの実力派だったが1994年にガンと脳卒中で54歳で亡くなっている。)だ。映画が大好きなモリーナはナチ占領下のパリで繰り広げられる美人シャンソン歌手(ソニア・ブラガ)と青年ドイツ将校の恋愛映画の話に夢中だ。そんなモリーナに嫌気がさしているヴァレンティン。モリーナは刑務所長からある取引を提示されていたのだった。ヴァレンティンからゲリラ組織の情報を首尾よく聞きだすことが出来たら、仮釈放をしてやるというのだ。モリーナはヴァレンティンに6つの映画の話を聞かせる。言い争ったり、慰めあったりしながらモリーナはヴァレンティンのことをだんだん好きになってゆくのだった。ヴァレンティンも又モリーナの女性らしさに心惹かれる。随所に入れられる蜘蛛女(ソニア・ブラガは永遠の女の象徴として出てくる)はモリーナが脳内変換した自分の姿か?向かいの牢に入れられている袋をかぶせられた男が拷問の末、死んでしまう。看守が袋を剥ぎ取った瞬間、激しいショックを受けるヴァレンティン。男はヴァレンティンが偽パスポートを取ってきて国外脱出をさせてやろうとしたアメリコ博士だったのだ。焦ったヴァレンティンはモリーナに仲間との連絡方法を教える。ヴァレンティンを愛するモリーナは嘘の情報を所長に教えて、釈放されるのだった。ヴァレンティンに言付かったことをゲリラに教えるために約束の場所に向かうモリーナ。だが彼女(彼?)は秘密警察に尾行されていたのだった。ウィリアム・ハートの魅力は厭世と諦観がない交ぜになったような虚無的な表情だが、犬のように死ぬオカマのモリーナを見事に演じた。監督は「黄昏に燃えて」などのエクトール・バベンコ。戯曲もプイグ自身が書いているので言うことはない。舞台は勿論、ミュージカルにもなった作品であり日本でも人気のある演目だ。