ビッグコミックに連載されている、はしもとみつおの「築地魚河岸三代目」を松原信吾監督が映画化。いかにも日本人らしさに溢れている作品である。赤木旬太郎(大沢たかお)は銀行に勤めるエリートサラリーマン。銀座のデパートでショーウィンドウのコーディネートをしている鏑木明日香(田中麗奈)にプロポーズしようとお洒落なレストランを予約して婚約指輪をプレゼントしようとしたが、疲れている様子の明日香は眠ってしまう。旬太郎は人事部長に昇進するが、上司の漆原(佐野史郎)からリストラをやってもらいたいと言われる。その分厚いリストの中に恩義を感じている上司の金谷(大杉漣)の名前があった。旬太郎は漆原に金谷のリストラは止めて欲しいというが漆原から上の決定だから仕方ないと言われてしまう。金谷の妻順子(森下愛子)は末期ガンにかかっており、旬太郎は金谷にリストラ勧告をするのが何より辛かった。仕事の悩みを抱えたまま歩いていて旬太郎は築地に来てしまう。そこで偶然、明日香を見かけて驚く。明日香は築地の仲卸<魚辰>の一人娘だったのだ。父の鏑木徳三郎(伊東四郎)がヒザの手術をするために入院しており人手が足りないので手伝っていたのだ。旬太郎は翌日から<魚辰>の手伝いに使ってくれとやってくる。<魚辰>には17歳の時から働いている兄貴分の英二(伊原剛志)を筆頭に、雅(マギー)エリ(江口のりこ)拓也(荒川良々)らが働いていたが、素人の旬太郎を迷惑がっていたのだ。築地にも旬太郎の噂が広まっており、駒さん(甲本雅裕)などは英二と明日香が結婚して<魚辰>を継ぐのが当たり前だと思っていたので、ことあるごとに旬太郎に喧嘩を売る。お節介で情に厚く早合点の男たちは喫茶店<アルプス>に集まっては旬太郎のことに花を咲かす。だが旬太郎は魚を一匹ずつ買い、拓也の助けを借りて自分で調理して食べてみる。旬太郎は微妙な味の違いがわかる舌を持っており、拓也は驚く。始めはアルバイト感覚で築地にいる旬太郎だったが、奥が深くて人情のある築地の世界が面白くなる。人間味のない銀行を辞職して築地で働きたいと徳三郎に頭を下げる旬太郎。旬太郎の奮闘ぶりや周囲の人間の思いやりなど本作は実に大切なことを語りかけてくる。この人を人とも思わないような風潮の中で、この映画が言わんとするところは非常に重い。英二は明日香のことを考え、明日香も又英二のことを思いやっている。ここには西洋人のような自己主張がない。自利より他利なのである。