1988年に「羊たちの沈黙」を世に出したトマス・ハリスは映画の成功と共にマスコミやパパラッチの前から忽然と姿を消す。続編はどうなるのか?というファンの声をよそに1994年フィレンツエ連続殺人事件裁判の傍聴席に作家の姿があった。それから5年後「ハンニバル」が発表されたのである。「羊たちの沈黙」を読んだときも驚いたが、続編の「ハンニバル」には更に驚愕した。何という魅惑的な結末なのか!!レクター博士ほどクラリスを理解し見守ってくれる人間はいない。上司のクロフォードさえクラリスを利用しているではないか?クラリスは多分にファザコンであり、クロフォードに父とも恋人ともつかぬ思慕を抱いていたのに。レクターにとって魂の栄養であるクラリスは彼と共に行方をくらます。書物ではOK!でも映画となるとそうもいかない。FBIのクラリスが殺人鬼レクター側へ行ってしまっては示しがつかないのだろう。あまりにえげつない結末に(自分の脳みそを食わせたり)前作のジョナサン・デミ監督もジョディ・フォスターも出演を断ったというのだから・・・。(イスラム教徒をテロリストと見なす「フライトプラン」とかは出演する癖に)10年前に「羊たちの沈黙」を見逃した名プロデューサー、ディノ・デ・ラウレンティスは「ハンニバル」の映画権に11億円を支払った。(前々作の「レッド・ドラゴン」も押さえる)
バッファロー・ビル事件から10年、FBI捜査官クラリス(ジュリアン・ムーア)は部下を引き連れて、麻薬売人のイヴェルダ・ドラムゴ(ヘイゼン・グッドマン)を逮捕しに向かう。イヴェルダは赤ちゃんを胸に抱き、反撃をしてくるのだった。銃撃戦になりその映像がニュースで流されたことにより、クラリスはマスコミからもFBI内部からもバッシングに会うのだった。一方、レクター博士の元患者で唯一の生き残り被害者メイスン・ヴァージャー(ゲイリー・オールドマンとはわからない凄い形相)は失踪したレクター博士の行方を追っていた。彼はレクターに麻薬を打たれて自分の顔の皮膚を自分で剥いでしまったのだ。車椅子の体にされたヴァージャーは有り余る資産を使ってレクターの情報を集めていた。ボルティモア精神異常犯罪者病院で雑用係をしていたバーニー(フランキー・フェイソンは3部作全部に出演している)からレクターとクラリスの関係を聞いたヴァージャーは司法省のポール・クレンドラー(レイ・リオッタ)を呼び出して、クラリスをレクター捜査の担当にするよう言うのだった。その頃レクター博士はフィレンツエにいた。フェル博士と名乗ったレクターはダンテについての豊富な知識を披露してカッポーニ宮の司書になろうとしていたのだ。だが前任者の司書が行方不明になっており、リカルド・パッツイ刑事(ジャンカルロ・ジャンニーニ)が捜査にやってくる。パッツイはフェル博士に不信感を持つが、FBIからの依頼で香水店の防犯ビデオをコピーして送ろうとしている部下の仕事を見ていて、その香水店にフェル博士の姿が映っていることに気づくのだった。パッツイは独自に捜査してフェル博士がレクター博士だということに行き当たる。そしてレクターには高額な懸賞金がかけられていたのだ。若く美しい妻アレグラ(フランチェスカ・ネリ)の贅沢な趣味や消費の支払いに困っていたパッツイは懸賞金を手にしようとするのだが・・・・。後はDVDでご覧いただきたい。強欲のためにジュリアーノ・デ・メディチ殺害を企てたフランチェスコ・デ・パッツイがヴェッキオ宮のテラスから腹を裂かれて縊死させられたという歴史的事実を交えたアイデアなど、フィレンツエを随分リサーチした作家の努力がうかがえる。原作で読むと2倍も面白いのだが、91億円もかけたという本作はハリス・ファンなら見逃せない。あの美しい黒のジバンシーのイブニングドレスはジュリアン・ムーアで良かったと思う。