
日本推理作家協会賞を受賞した大岡昇平の「事件」を「砂の器」などの野村芳太郎監督が映画化。脚本は新藤兼人。全編ほとんどが法廷という1978年度の作品である。米軍基地厚木を舞台に一人の女が19歳の青年に刺殺された事件の全容を追うという筋書きだが、米軍基地の街、厚木に住む人の心が徐々に蝕まれていくさまを描いている。一つの事件の根底にあるものは戦後、日本人が支払ってきた代償の大きさを物語る。(やはりそこは大岡昇平なのである)姉妹が一人の男を取り合いしたなどという安易な問題ではないのだ。映画を見る限り姉妹の愛憎にしか見えないのが残念である。昭和52年3月28日、相模川の山林で若い女の刺殺死体が発見される。犯人の19歳工員、上田宏(永島敏行)は逮捕されて第一回公判が行なわれた。罪状認否がなされて、上田宏は罪を素直に認める。岡部検事(芦田伸介)が「白いジャンパーが返り血を浴びるのが嫌で後ろから羽交い絞めにして胸部を刺した。」と述べる。白いジャンパーに違和感を覚える菊池弁護士(丹波哲郎)。被告人が通っていた定時制高校の教師、花井先生(山本圭)は被告人の父親、上田喜平(佐野浅夫)に会う。喜平は百姓をしていたのだが、広大な農地が米軍基地に買い上げになり成金になった男である。妻が死んだ途端、芸者を妾にしているという噂があった。喜平は被害者、坂井ハツ子(松阪慶子)の家のことを悪く言う。ハツ子はアメリカ兵に暴行され、母親すみ江(乙羽信子)の再婚相手に乱暴されそうになったりと悪い噂には事欠かなかったというのだ。そんなことがありハツ子は家出をして歌舞伎町でホステスをしていた。しばらくぶりで帰郷したハツ子はすっかり派手になり、地元でスナックを開業する。そんなハツ江を東京から追いかけてきたヒモの宮内辰造(渡瀬恒彦)はハツ子が書いたという50万円の証文を持って、すみ江の所へやってきたという。すみ江はスナック開業資金も借金をしており、スナックを売却したものの借金ばかりで幾らも残らなかったとこぼす。ハツ江の妹でヨシ子(大竹しのぶ)は宮内の50万円の証文は姉ハツ子が手切れ金として書いたものだと言うのだった。ヨシ子は被告人、上田宏の子供を妊娠しており2人は同棲しようと計画を立てていたのだ。そのことを姉ハツ子に知られてしまい、すみ江や喜平にいいつけてやると脅されていた。店の売り掛け金を回収にきていたハツ子にバッタリ会った上田宏は自転車の後部座席にハツ子を乗せて、山林に連れ込み刺殺したということだった。菊池弁護士は岡部検事に電話をしてハツ子の所持品である手帳を見せてもらう。そこには売掛金の詳細が事細かに記されていた。最初に呼ばれた証人は山林の持ち主でハツ子刺殺後の上田宏に会った大村吾一(西村晃)である。菊池弁護士は大村に「あなたはハツ子さんと山林で会う約束をしていましたね!」と言われてタジろぐ。売掛金4520円が大村の名で記されていたのだ。次の証人は2人が自転車に乗って山林への道を入っていったところを目撃したという八百屋の婆さん、篠崎かね(北林谷栄)である。かねはハツ子の姿をシッカリ見たといい、2人は口論していたと証言。菊池弁護士はハツ子が自転車に右乗りしていたのにどうして顔を見えたのか?と問う。そして宮内辰造も又証人として呼ばれる。宮内は宏とハツ子がヨシ子と関係を持つ前から関係があり、度々2人が鶴巻温泉で逢引をしていたと言う。凶器と思われる登山ナイフを買った金物屋店主の清川民蔵(森繁久彌)も証言をする。上田宏は刃物と洗濯バサミを嬉しそうに買っていたというのだ。ヨシ子との同棲生活を始めるので楽しかったのであろうと証言。この時点ではハツ子を殺そうなどという気持ちはなかったのだと推測する。宮内が再び証人喚問をされる。菊池弁護士は宮内が大村の売掛金を回収すると聞き、ハツ子の後を追ったのでは・・・と推測しそのことを宮内に言う。宮内はハツ子をずっと尾行しており、ハツ子の方から宏の持つ刃物の方へ身を投げ出したというのだった。谷本裁判長(佐分利信)は「確かに殺意はなかったとしても、邪魔者を除け!といった身勝手な被告人を許すわけにはいかない。傷害致死および死体遺棄というのが適当であろう!」と言う。宏は2年から4年の刑を言い渡される。どうしょうもない身勝手な人間ばかりが出てくるが、戦後の日本はこんな人間が増えた。増え続けている。