あの「ジョゼと虎と魚たち」の犬童一心監督と渡辺あや脚本コンビが5年も温めていた話を映画化した。「ジョゼ〜」と比べると大分見劣りはするが(こちらは田辺聖子の傑作だから仕方がない)ゲイという世界を描きつつ人間の本質に迫っておりうならせる作品ではある。しかし万人に受け入れられるかは疑問だ。吉田沙織(柴咲コウ)は細川塗装会社の事務員をしていたが、彼女にはある理由から多額の借金があり夜もコンビニでバイトをしてる。ある日、いっそのこと風俗かヘルスにでも行こうかと求人雑誌を読んでいるときに、岸本春彦(オダギリ・ジョー)と名乗る男がやってきてゲイの老人ホーム「メゾン・ド・ヒミコ」に週一回日曜日だけ3万円で働きにきてくれないかと言う。春彦は沙織と母を捨ててゲイバーを始めた卑弥呼<吉田照男>が末期がんになっており、余命いくばくもないのだという。「メゾン・ド・ヒミコ」は卑弥呼がゲイバー<卑弥呼>を売却したお金で購入されたものであり、ゲイ老人のための施設だったのだ。沙織はそんな父親を許してはいなかったが、お金欲しさに勤めることにする。そこには生まれ変わったらバレリーナになるというルビィ(歌澤寅右衛門)や元支店長で洋裁が得意の心優しい山崎、元小学校教師で将棋好きの政木、ホームのパトロンの部下だった菜園好きの木嶋、背中に立派な刺青の入った高尾、卑弥呼の従業員だったTVドラマ好きのキクエ、彼らの世話役チャービー、そして卑弥呼の若い美青年の恋人春彦がいた。普通の家庭生活を一応は持っていたがその家庭を捨てた者やゲイゆえに家庭を持たず天涯孤独なものなどゲイの人たちの孤独が切々と迫ってくる。ゲイの父親を死ぬほど嫌っているのにゲイの春彦に引かれたり、女を愛せない春彦に失望して好きでもない細川専務(西島秀俊)と寝たりする沙織が痛々しい。嫌悪感と愛情が背中合わせであることや、偏見であった対象が憧憬の対象に変化したりする人間の移ろう心の機微を描いていて秀逸である。