浅田次郎の「鉄道員」の中に入っている短編「オリヲン座からの招待状」を映画化。佳作ではあるが日本人らしい暖かな映画である。良枝(樋口可南子)の所へ<オリヲン座>からの招待状がくる。昭和25年から続いた映画館オリヲン座を閉館するというのだ。良枝は別居中の夫祐次(田口トモロヲ)を呼び出して離婚を切り出すのだったが、その前にオリヲン座へ一緒に行こうと誘うのだった。昭和32年京都西陣のオリヲン座に1人の青年がやってくる。かかっている映画は「二十四の瞳」と「君の名は」の2本立て。お金を持っていない留吉(加瀬亮)をただで入れてやる豊田トヨ(宮沢りえ)だった。留吉はここで働かせて欲しいと頼みこむ。トヨの夫で映写技師の松蔵(宇崎竜童)は両親を失って行き場のない17歳の留吉を住み込みで雇うのだった。昭和39年結核を患った松蔵が急死する。葬式が無事終わり、留吉はオリヲン座再開に松蔵が徴兵にとられてどうしてもかけられなかった「無法松の一生」をかけるのだった。ところが西陣の町にもかげりが見え始めて不況がこの町を襲うのだった。その上テレビの普及に伴い映画館に通う人も急速に減ってしまう。トヨと留吉の関係を色々と邪推した近所の連中があることないことを噂して彼らの足も遠のくのだった。フィルム代にも事欠くありさまに留吉は配給会社の担当者に頭を下げてフィルムを貸してもらおうと奔走する。その頃、近所の幼馴染だった良枝と祐次はただで映写室に入れてもらって映画を見ていたのだ。なんてことはない映画であるが、トヨと留吉の2人の心が溶け合う様や互いを思いやる気持ちを淡々と映画は語る。夫のお骨を抱いたトヨと留吉が木津川の流れ橋を歩く場面や加茂川でホタルをつかまえた留吉が足を怪我したトヨの蚊帳を張った寝室に放つ場面が美しい。晩年のトヨを中原ひとみが、留吉を原田芳雄が映じている。加瀬亮もおやじと思い慕っていた松蔵の未亡人トヨを密かに思い続ける青年を上手に演じていてよい。何より宮沢りえが(若い頃「豪姫」に出演したときは救いようのない大根女優だと思ったが)年齢を重ねる度になんともいえない風情をもつ女優に成長しているのが素晴らしい。ラストは一筋の涙が頬を伝うだろう。