デヴィッド・クローネンバーグ監督はカナダ出身の人だが、元々作家志望だった。敬愛するポール・ボウルズなどを読むにつけ作家の道を断念。後にボウルズの「裸のランチ」を映画化した。肉体描写にこだわる人だが、本作でもヴィゴ・モーテンセンの肉体に43の刺青を描き、素っ裸での格闘惨殺シーンが最大の見せ場となっている。(ヴィゴ・モーテンセンは新境地を開拓したと言えるだろう)「イースタン・プロミス」とは英国における東欧組織の人身売買を指す。クローネンバーグは「クラッシュ」あたりから変化しだしたが、本作も又地味だがウクライナやグルジアなど貧しい東欧から騙されてロンドンなどで売春をさせられている少女や女性の実態をあぶりだしており、カルト監督と呼ばれるクローネンバーグとは少し様相が違っている。トラファルガー病院に急患が運ばれてくる。14歳のタチアナという少女は妊娠しており胎盤剥離で大量に出血して亡くなったが、子供は無事誕生した。助産婦として勤務するアンナ(ナオミ・ワッツはノーブルな美しさで薄化粧に好感が持てる。父親はピンクフロイドのエンジニアをしていたピーター・ワッツである)はタチアナの日記を手にする。家に持って帰ってロシア人の叔父ステパン(イエジー・スコリモフスキーは有名なポーランド監督)に翻訳を頼むが叔父は盗んだものだと言い断固拒否!日記の間に挟んであった名刺に書かれていたロシア料理店に行きオーナーのセミオン(アーミン・ミューラー=スタールは名優である)に日記のことを話すのだった。セミオンはその日記を持ってくれば翻訳してやろうと申し出る。セミオンはロシアン・マフィアのボスだったのである。セミオンの息子キリル(ヴァンサン・カッセル)はタレコミ屋ソイカの殺害をアジムに指示する。キリルの右腕で運転手のニコライ(ヴィゴ・モーテンセンはゴルデングローブ主演男優賞を受賞)はタレコミ屋のソイカの死体から歯を全部抜き取り、指を全部切り取って海に沈めた。同性愛者でアル中、激昂しやすく短気なキリルとは対照的に感情を面に表さず、組織に忠実で凄腕の始末人ニコライ。タチアナの生んだ子をクリスティーンと名づけて病院で保護していたアンナだが、そこへセミオンがやってくる。日記にはキリルのことが書かれているので、タチアナの実家の住所と引き換えに日記を渡して欲しいと圧力をかけてくるのだった。アンナは叔父ステパンと母ヘレン(シニード・キューザック)を連れてカフェで待っているとニコライがやってきて日記を持ち帰る。アンナにはタチアナの実家よりアンナの元にいるほうが子供は幸福だと言う。中盤くらいから筋書きが読めてくるのだが、ロシア人の残虐性と美しい音楽を愛する民族性もふんだんに描き、セミオンが「イギリスは雪も降らないし、日も当らない。ここは売春婦と売人の町だ。」と言うのも含みがある。