5人を殺害して昭和39年に逮捕され、43歳で処刑された西口彰事件は12万人の捜査員を動員して新聞やTVなどで指名手配写真が報道されながら78日間も逃亡していた。その一部始終を映像化している。原作は本作により第74回直木賞を受賞した佐木隆三、監督は今村昌平。1979年度キネマ旬報第一位に輝いた他、助演男優賞を三國連太郎が助演女優賞を小川真由美が受賞した。昭和38年、日本専売公社の運転手、柴田種次郎(殿山泰司)と馬場大八(垂水悟郎)の遺体が別々の場所で発見される。鈍器で殴り、刃物でメッタ刺しにしており酷い状態であった。269000円入っていた集金袋が発見される。犯人は榎津巌(緒形拳)と断定した警察は彼の情婦だった女たちに事情を聞く。女郎の畑千代子(絵沢萌子)は千枚どおしで脅かしてやったと言い、食堂の女、吉里幸子(白川和子)は十字架をもらったと言う。幸子には連絡船から自殺するといった内容の偽装ハガキが来ていた。別府で旅館を営む父親の鎮雄(三國連太郎)にも巌の行方を聞く捜査員。母親のかよ(ミヤコ蝶々)は病弱で寝てばかりいた。昭和13年、五島にいた鎮雄は島でも網元をしていたが、海軍主計中尉(小野進也)がやってきて船の供出を拒む鎮雄に暴行を加えた。それに憤った巌少年は中尉に立ち向かっていく。鎮雄は巌を取り押さえて、船の供出を承諾するのだった。その日を境に巌の行状が悪くなったというのだ。度々少年院に入れられるようになり、成人してからは詐欺や窃盗で刑務所を出たり入ったりしていた。鎮雄は五島を出て、別府の金輪温泉に旅館を一軒購入した。鎮雄は巌を結婚させようと見合いの席を設けるが、巌の子供を妊娠しているという加津子(倍賞美津子)がやってきて、止む無く結婚させる。仏教徒の加津子はクリスチャンに改宗するのだった。鎮雄も敬虔なクリスチャンであったが、妻のかよは「この家にゃ悪魔が住むと!」と吐き捨てるように言う。巌のあまりの行状に妻の加津子はいったん離縁して2人の娘を連れて別の温泉宿で働くが、鎮雄が「クリスチャンは離婚を認められていない!」と言って土下座して加津子と2人の孫を連れ戻す。捜査員も加津子と会うが温泉卵を売る加津子は「絶望が一番の罪ですけん!それにうちはお父さんを尊敬しております。」と答える。一方、巌は浜松で小さな旅館<あさの>を営む女将の浅野ハル(小川真由美)の宿に泊まる。大学教授のフリをした巌をすっかり信用したハルは巌の言うままに売春婦斡旋所<白菊クラブ>からステッキガール(根岸季江)を呼ぶ。ハルは旦那(北村和夫)の妾だったが、昔、人殺しをして15年間服役していたことのある実母ひさ乃(清川虹子)と暮らしていた。旦那からは月々の手当と旅館経営を任されていたが、旦那には他に愛人もおり、旅館名義をなかなかハルの名義にしてくれない。ハルは旦那の来ない日は麻雀仲間の若い男(火野正平)と関係を持っていた。巌は公判に顔を出して被告の母親(菅井きん)から保釈金だといって10万円を受け取り、かご抜け詐欺をやる。(刑務所の待合室で金を受け取り、刑務所に入るフリをしてタクシーで逃走する。表から入って裏から逃げる詐欺のこと)たまたま乗り合わせた弁護士の川島(加藤嘉)と仲良くなり、川島弁護士が雑司が谷で一人暮らしと聞いて「すきやきでもしましょう!」などと言って家に入り、殺害する。だが家捜ししても通帳や金目の物がどこにあるのかわからないのだった。仕方なく浜松に戻った巌は旅館<あさの>にやってくる。旦那から酷い目に遭っているハルを見て包丁に手が伸びる巌。ひさ乃がそれを制止する。ハルと映画<ヨーロッパの解放>を見るが、上映前に巌の指名手配写真が公開されておりハルには何もかもわかってしまう。だがハルは優しい巌を匿うのだった。巌は可哀相な境遇のハルを絞殺、続いて墓参りから帰宅したひさ乃も絞殺する。質屋に電話して旅館の中の売れるものを売る巌。(電話まで10万円で売ろうとしている)昭和38年1月4日、ついに榎津巌は逮捕される。収監中、母親が死亡。鎮雄は教会を破門されたことなどを伝える。鎮雄は巌にツバを吐きかけるのだった。巌は「殺してやりたかったのは、お前だ!」と叫ぶ。絞首刑になった巌の遺骨を引き取った鎮雄と和子は展望台の上から骨を投げ捨てるのだった。劇中、何度も和子が鎮雄を誘惑する場面があり、その度に鎮雄は拒否するのだが、映画のストーリーよりもそっちの方が気になって仕方がなかった。(鎮雄は和子の男まで世話してやっている)映画はほとんど実話に則して描かれており西口彰事件の全容がよくわかる。だがこの殺人犯の心の闇を描ききれてはおらずいささか判りにくい。下は取調べ室で微笑む西口彰と公判で入廷する西口の写真。
