アンドレ・デュバス三世(父親が「イン・ザ・ベッドルーム」などを書いたアンドレ・デュバス)の渾身の作品「砂と霧の家」を長編初監督であるヴァディム・パールマンが映画化(パールマン監督はロシアからイタリア、カナダへと移民生活を送り一時は路上生活もしたことのある人であるから、移民に対しての眼差しは特別なものがある)。色んな視点から見れる作品で含みの深い名作である。痛烈なアメリカ批判ともとれる本作はアカデミーにノミネートされたが受賞にはいたっていない。(主役のベン・キングズレーの演技はオスカーものだと思う)霧の深いサンフランシスコを舞台に映画は始まる。夜半、霧に包まれた一軒の家。バルコニーに佇むキャシー(ジェニファ・コネリーは最近、社会派映画に好んで出演している)。そして場面はアラブ系の人たちの盛大な結婚式披露宴に移る。マッスード・ベリーニ将軍(ベン・キングズレーはやはり風格ある役柄がとてもよく似合う)がスピーチをしており、イラン革命により祖国を追われアメリカに入国したことや、イランでの別荘の話に及ぶ。彼はイラン国王の側近だったがイラン革命により祖国を脱出、財産はほとんど没収され28万ドル(3360万円)と高価な家財の一部だけを持ち出してきたのだ。それも娘ソラヤの結婚と高級ホテルの賃貸料にほとんど使ってしまっており、彼は昼間は道路工事夫として夜間はガソリンスタンドで働いていた。何も知らない妻と子供たち。駐車場においてあるベンツから高級スーツを取り出して、トイレで着替えを済ましてから自宅へ戻る生活をしていたのだ。だがこんな浮き草のような生活を続けるわけにはいかない。ベリーニは14歳の息子イズマイルを大学へやるためにも資金を作らなければならなかった。それで毎日新聞を見ては競売物件を探していた。ある日、祖国の別荘に似ている物件を見つける。しかし510万円というその物件は、キャシー・ラザロ(ジェニファ・コネリー)が郡の税務署のミスにより手放してしまった家だったのだ。夫に出て行かれて失意と哀しみにくれていたキャシーは所得税70万円の督促状にも目を通さずにいて、突然に家を差し押さえられてしまう。立会人の副保安官レスター(ロン・エルダード)は若く美しいキャシーに同情して、荷造りを手伝い貸し倉庫を借りる手はずを整えてくれる。そして弁護士も紹介してくれるのだった。無職のキャシーはモーテル代も滞納して困っている所をレスターに救われる。2人は深い関係になってしまい、レスターは妻子のいる家を出てキャシーと暮らし始めるのだった。そしてレスターはベリーニ一家を脅迫する。レスターはアメリカそのものの象徴であり、困った存在だ。そして悲劇が起こってしまう。弱者と移民にちっとも優しくないアメリカ。家(利権)をめぐって争うさまはアラビア諸国とアメリカの状況を如実に示している。最後にキャシーが言う言葉は深い。「この家はあなたの家ですか?」と問われて「いいえ、彼らの家です。」と答える。彼らの家へ土足で入っていくのはアメリカに他ならないのだ。見事な作品でありベン・キングズレーの演技は忘れられないものとなるであろう。