
低迷する日本映画を救うのは篠田正浩監督だといわれていた監督の1966年度作品。原作は川端康成の同名小説である。全編を通して出てくる絵画は当時、新進気鋭の画家・池田満寿夫の作品。美しさ重視の作品なので、美しい2人の女優は目にも優しいが演技の方はそう誉められたものでもない。川端康成はこの作品に出演した加賀まり子が気に入り、度々、一緒に朝食などを食べていたらしい。大晦日も近づく暮れの29日、作家の大木年雄(山村聡)はある人と除夜の鐘を聞くために京都へやってきた。都ホテルに入った大木は電話帳を調べて、女流画家・上野音子(八千草薫が美しい)に電話をする。もうかれこれ15年も会っていない音子。彼女は大晦日の夜、ロビーで待っていて欲しいと言うのだった。だがやってきたのは音子の内弟子だという若い美女、坂見けい子(加賀まり子)。音子は知恩院の傍の料亭に席をしつらえて祇園の舞妓2人を呼んでいた。音子はけい子のことを「この子はアブストラクトの絵を描きますの。気狂い地味たところがありますのよ。」と紹介する。15年前、まだ女学生だった音子を妊娠させた大木。音子は流産してしまい、一週間後に睡眠薬自殺をしようとしたのだ。それは未遂に終わったのだが精神に異常をきたしてしまった音子は半年間、精神病院に隔離されていた。その時、音子の母親(杉村春子)から「今は会わないでやってくださいまし、音子とて妻子のある男性とわかっていてこうなったのですから・・・。でも・・・大木さん!一回しか言いません。3年でも5年でも10年でも音子は待っています。ですからいつか音子と一緒になってやってください。」と言われていたのだ。だが、15年の月日が経ってしまい音子の母との約束は果たせぬままの大木であった。だが音子との顛末を赤裸々に綴った大木の小説「十六、七の少女」は彼の代表作となり、押しも押されもせぬ人気作家となったのだ。大木は当時のことを回想していた。妻の文子(渡辺美佐子)は音子の存在を知って、舌を噛んで死のうとまでした。その上、「十六、七の少女」をタイプライターで清書したいと言ってきかず、随分と苦しんでいる様子であった。その頃、小さかった息子の太一郎(山本圭が初々しい)も今では大学院に通い、鎌倉・室町時代の文学について研究をしていた。その後、けい子は度々、大木の自宅に自作の絵を持ってやってきた。妻の文子は「この絵は音子さんの絵ですわ。あなた、この絵を燃やしてしまいたいの。」と言う。けい子を駅まで送っていった太一郎がなかなか戻ってこないので危惧する文子。けい子の魅力に大木も又、抗しきれない。葉山のホテルでけい子を抱く大木。左の胸を触ろうとすると「左はダメ!ダメなの!」などというけい子。

だが、同時にけい子は太一郎も誘惑していた。そしてけい子はそのことを逐一、音子に報告する。音子が「もうそんなことはおやめなさい!あなたって恐い人ね!」」と言うが「私は愛する音子先生を苦しめている大木先生が憎い!私が先生の代わりにあの家をメチャメチャにしてやりたいの。だって、先生まだ大木先生のことを愛していやっしゃるんですもの。」とけい子は言う。悪夢にうなされる音子をじっと見るけい子。愛する音子の指を噛むけい子。「あなたって恐い人ね・・・」と言いながらけい子の魅力に音子は墜ちていく。京都にやってきた太一郎と小倉山に登り、時雨亭や墓所などを見て回る。琵琶湖でモーターボートに乗りたいというけい子に誘われて湖畔のホテルに部屋をとる。太一郎が風呂に入っている間に鎌倉の大木家に電話をするけい子。文子は太一郎に「その人はお父様を誘惑した女ですよ。あなたが戻ってこないなら、お父様と2人でそちらへ行きます。」という。悩む太一郎の前に裸身のけい子が立っていた。情事を終えた後、けい子は太一郎をボートに誘う。

画室にこもって亡くした嬰児をテーマにした絵を描く音子。そこへ電話がかかってくる。けい子の乗ったボートが転覆したのだという。琵琶湖に駆けつける音子。けい子は泳いで岸にたどり着き、一命はとりとめたが太一郎は見つからず漁師たちが捜索している最中だという。そこへやってきた大木と文子。文子は鎮静剤で眠っているけい子に詰め寄る。大木は止めるが、けい子の頬には涙が一筋流れているのを音子は見ていた。大木のような男性に天罰が当たったといえばそれまでだが、妻の嫉妬は直裁に描かれておりわかりやすいのだが肝心の音子の心情があまり伝わってこない。けい子役の加賀まり子はビジュアルが小悪魔的なので随分と得をしているが、台詞が棒読みで興が殺げる。杉村春子の演技と山村聡がどうしようのない男の性を(音子と顔を合わせながら、けい子を見るときの大木の双眸がパッと明るくなるのがいい)表現できており良かった。大木と太一郎の会話の中に皇女和宮の墓を掘り返したという話があり、和宮の棺の中に入っていた愛する人の写真が日の下に晒された途端、消えてしまったので誰だかわからなかったという。