
木下恵介監督の1949年度作品。原節子が出ている木下作品唯一の映画である。監督自身あまりやらない<号外>(その日その日のシナリオをガリ版で刷って配るといった方法をとったという。そのシナリオを号外と呼ぶ)で撮影したらしく随分と苦労したようだ。この年、ライバルの黒澤明監督は「静かなる決闘」を公開している。いつも思うのだが木下恵介の作品は歌う場面が多い。佐野周二や佐田啓二まで歌っているのだ。石津圭二(佐野周二)は34歳の独身。貧乏育ちの圭二は必死になって働いて石津自動車会社を設立。戦後、浮浪者の中から拾ってきた五郎(佐田啓二)を弟として育ててきた。そんな圭二に佐藤(坂本武)が縁談話を持ってくる。相手は学習院卒のお嬢様。そんな月とスッポンの組み合わせがうまくいくはずもない!とハナから思っている圭二はいきつけのバー<スパロー>でそのお嬢さんと会うことを承知する。長靴姿で行った圭二、相手のお嬢様、池田泰子(原節子)の美しさに驚く!自宅であるアパートに戻ってきた圭二は五郎に「力という力が抜けた!雷に打たれたよう!息が止まりそう!」などと言い、ぼんやりとしている。相手から断ってくると思っていた圭二だったが、予想に反して泰子が承諾!夢心地の圭二だった。池田家に招待された圭二は祖父(青山杉作)祖母(藤間房子)、母(東山千栄子)、姉(森川まさみ)とその夫で教授の大橋(増田順二)に紹介される。祖母が「泰子さん、ピアノを弾いて差し上げなさい!」というと泰子は嫌な顔をする。2人きりになった泰子は圭二に「さっきお婆様がピアノとおっしゃったけれど、実は売れるものは全て売ってしまったんです。」と告白する。立派に見えた屋敷もよく見れば、椅子は破れているしドアノブもとれていてシャンデリアもすっかり取り払われていた。道理で話がうますぎる!と思った圭二は佐藤に訳を聞く。池田家は屋敷を抵当に入れており、100万円支払わなければ3ヶ月後とられてしまうというのだ。その上、泰子の父(永田靖)は終戦直後に詐欺事件に連座してしまい刑務所に服役中だった。泰子には帝大出の秀才だった婚約者がいたのだが、昨年死んだという。話を聞けば聞くほど落ち込む圭二。佐藤は3ヶ月付き合ってみて決めたらいいと言う。2人は泰子の友人が出ているバレエを見たり、圭二の好きなボクシングの試合を見たりする。泰子の誕生日パーティーが行なわれ、圭二は泰子にピアノをプレゼントする。祖母は急に気分が悪くなって自室にこもってしまう。ショパンを弾く泰子。圭二は故郷高知のよさこい節を披露する。生まれも育ちも違う2人のギャップ!泰子が金のために自分との結婚を考えているのでは・・・・?という思いが圭二を苦しめる。思い悩んだ圭二は100万円を出して、屋敷を抵当から抜いてやり自分は泰子に別れを告げて故郷へ10日間ほど帰ろうとする。手紙をよんだ泰子はバーにやってくる。ママ(村瀬幸子)は「愛してますなんていっちゃダメよ。惚れているっていわなきゃ!」と泰子に言うのだった。泰子は圭二に愛情を感じ始めていたのだが、そこはお嬢様、お上品すぎてハッキリと言えないのだ。泰子はとるものも取り合えず駅に向うのだった。粗野な佐野周二とお嬢様の原節子の対比が面白いが、没落華族を描いた吉村公三郎の「安城家の舞踏会」の方が良くできている。